本日は、農福連携関連の書籍『農福連携が農業と地域をおもしろくする』について、感想を書いてみたいと思います。
目次
読んだきっかけ
最近、興味のある「農福連携」について情報収集するために手に取りました。本自体はAmazon等で見かけたことがあったのですが、中々読む気にならず時が過ぎておりました。ただ、コトノネという雑誌が面白いと感じたこと、著者の方が講師として参加する勉強会に出席できること等から読む気が沸き上がり手に取るに至りました。
本の概要
まずは基礎情報整理しておきます。
書籍名:農福連携が農業と地域をおもしろくする
著者:吉田行郷、里見喜久夫、季刊『コトノネ』編集部
発行年:2020年1月31日(初版)
発行:株式会社コトノネ生活
値段:1800円(税別)
頁数・サイズ:263頁、B6くらい
農福連携についてはいくつか書籍出版されていると思いますが、本書で掲載されている事例の数はかなり多い部類なのではと思います。また、2020年発行なので事例としても比較的新しそうです。ただ、事例だけではなく、コトノネという障害関連の雑誌の編集長である里見さんも著書に名を連ねており、福祉側の視点、情報を発信する側の視点から書かれている部分があったり、農福連携に取り組む事業者と著者との対談がのっていたりします。様々な角度から語られていることから勉強となることも多かったです。
印象に残った点
◆「こころみ学園」の取組み
これが本格的に障害者が農業に取り組んだ農福連携と呼べるものだったようです。1958年に栃木県足利市にある急斜面を開墾してぶどう畑をつくり農業を始めました。ぶどう生産を本格化する中で、ぶどうをワイン用に切り替えて品質の高いワイン製造に成功しています。この事例は、私が通う専門学校の講師から紹介してもらったり、福祉楽団の理事長がオススメしていたり、と、特に福祉関係者の間で草分け的な事例として取り扱われている印象です。
農家・農業法人と社会福祉法人等とのマッチング支援を行う地方公共団体
香川県社会就労支援センター協議会が共同受注窓口となり、「作業を委託したい」農家・農業法人と「作業を委託したい」社会福祉法人等をマッチングする支援を実施しています。「労働力の足りない農家」と「障害者の働く場が欲しい社会福祉法人」のマッチングということで良い取り組みに見えますが苦労もあったと想像します。個人個人で特性の異なる障害者たちに農業をしてもらうというのは簡単ではないでしょう。農家さんが障害特性の理解をしようという努力、それを伝える社会福祉法人の努力があってこそ、成り立ったのではないかと思います。
株式会社えと菜園による「ホームレス農園」
農福連携と言えば障害者就労の場というイメージがありましたが、もっと広い方を対象に取り組めるのだと気づかせてくれました。また、このホームレス農園で働くことが目的ではなく、個々を起点に次に向かっているという点も単なる労働力ではない居場所としての価値を感じさせてくれました。
農業こそ地域の福祉だった
社会福祉法人が地域への貢献活動として清掃等を続けていたが、地域住民との関係は良くならなかった。でも、障害者が農業を始めてからすぐお年寄りから声を掛けられ、関係が良好な方向へ進んでいったという話がありました。今、社会福祉法人に求められている地域との連携という意味でも非常に効果が期待できるお話です。
農福連携+農家連携
地元の農業法人、新規就農者、障害者福祉施設が集まって取り組まれており、核となっているのは愛知県豊田市の「農業生産法人みどりの里」です。各関係者が連携しながら進めることで、小規模農家単独では出来ない価値向上を実現しています。特に目を引いたのは、工賃です。あえて、障害者への工賃を現物支給にしているとのことです。これは、事前に時給等の形で工賃単価を決めてしまうことで、障害者が働くうえで様々な制約が出てきてしまうことを避けるためです。労働=対価はお金、という現代の常識にとらわれない、それぞれが大事にする価値を交換・共有している事例なのではと思いました。良好な関係あってこそ成り立つ話かもしれません。
◆三重県の「農業ジョブトレーナー」気になる。
自然のルールに従うことの効果
- 著書と福祉事業者の対談の中で「人間のルールではなく、自然のルールでやると、逆に人間関係がよくなる」といった話が出てきます。これは利用者と支援者の対等な関係という話につながっています。
- 私が就労継続支援B型の事業所で研修を受けていたときに非常に難しいなと感じたのが利用者との関係です。施設の研修指導者より利用者と支援者(職員)は対等な立場であると説明を受けます。ただ、実際に施設で作業し、成果品の品質や生産量を確保するためには、職員がリーダーであり指導者側とならざるを得ない環境と感じていました。
- ただ、農業という自然のルールに従いながら成果を産み出す行いに向き合った時、きっと利用者と支援者のベクトルが自然を介して同じ方向に進む感覚になるのではと思いました。
- 当然、農業だって成果に品質、生産量が求められます。支援者である職員や農家の方たちが指導する立場となる点は変わらないかもしれません。ただ、製造業のような作業効率が重視され、均一化されたものが高く評価される世界とは異なり、プロセスも含めて評価され、障害のある方だからこそ成果の品質が高くなる可能性が農業にはあるのではと思いました。
吉田行郷さん、里見喜久夫さん、季刊『コトノネ』編集部さん、読んでくれた皆さん、ありがとうございました。